悪魔使いはリスクを負うてはる。それは、ワシらみたいにまっとうな悪魔を使役せんと思うんやったら、当然のこと。なんぼなんでも代償もなしに得られるもんとちゃう。等価交換、ゆうやつ。それはさくちゃんかて、それどころかアクタベはんかて、おんなしや。悪魔使いはリスクを負うてはる。いつだって、負うてはる。
 さくちゃんはこれまで、何べんもおっかないコトになっとった。イケニエ受け取ってもらえんでかあいらしい動物になりかけたことも一度きりやない。あぶのうて見てられへん。心臓がなんぼあっても足りんくらいや。ああ、せやけど、目を離すんはもっとむずかしいなあ。そんなんしたら頭おかしなる。やってさくちゃんはかわいい、かわいいワシの契約者やから。
 さくちゃん、いうんは、ワシだけの特別。さくまさん、なんて他人行儀ワシはきらいや。ワシとさくちゃんは仲良し。さくちゃんはワシが好きで好きでしゃあない。まあ、ワシもさくを結構気にいっとる。チチの具合もええ感じや! グリモアの鉄拳を掻い潜って辿りつくおっぱいほどええもんはない。達成感があんねん。
 ほんでな。さくちゃんは、料理がうまい。カレー以外のもんは滅多に食べられへんけど、機嫌がええときはときたま、オムライスとかハンバーグとかつくってくれる。うまい、ホンマうまい。ワシ、さくちゃんの料理が食べられるんやったら、一生さくちゃんと契約しとってもええかなあ、思とる。それくらいうまい。そやのに何でやろ。ワシのイケニエはやっぱり豚足だけや。たまにシャアザク、の足。これは労組に申し立てせなアカンな、うん。
 ……なんや、話がずれたな。
 あんなあ、ワシ、いまかくれんぼしよんねん。もおいいかい。って声は、まだ聞こえへん。たぶん数えてるとこなんやと思う。ワシがすっかり隠れてしまうのを、待ったはるんやと思う。そんでもうちょいしたらもおいいかいって訊かはるんやろ。ワシ、もうちゃあんと隠れたった。誰にも見つからんように隠れたった。これできっと鬼さんは、ワシのこと見つけられんやろなあ。ほんで散々捜しまわった挙句に、降参です、て言わはんねやろなあ。降参です、アザゼルさん。どこに隠れてるんですか。そろそろ出てきてくださいよ。
 けどワシ、しばらくは出たらへん。もっと一生懸命さがしい。もっと一生懸命、アザゼルさんを呼びい。自分、頑張りが足りんねん。努力が足りんねん。そうゆうこと、ちゃあんと教えたらな、アカンやろ?

「アザゼルさん、」

 ホンマに見つけたいと思うならそんな簡単に諦めるもんやない。ホンマに欲しいと思うならそんな簡単に降参なんぞ、するもんやない。ワシはずうっと息を潜めとる。見いつけた。そうゆうんをずっと、待っとる。

「どこに、」

 どこに、おんねん。いやいや、アカンやろ。それはアカン。見つけもせんうちからイチ抜けなんてそんなん許されへんよ。ちゃんと見つけたってよ。さみしいやないの。せつないやないの。もおちょい分かりやすいとこ、いこか? それがええね。今日びの鬼さん、ちょっと捜し物が苦手やもんね。携帯しりませんか。手帳しりませんか。しょっちゅう、言うてたもんね。
 ほら、ここにおるで。アザゼルさん隠れとるで。はよ見つけえな。アホやなー、まだかいな。
 見当違いのとこ、まだ捜してるんやろか。ほんにさくは、アホでどんくさいからなあ。ワシいっつも心配やってん。いつ取り返しのつかん失敗するやろかって、心配やってん。悪魔使い、軽く見たらアカンでって、何べんも言うたやんか。なあさく。言うたよなあ? そやのにお前、なにしとんねん。

「……」

 出る出る。もお出る。アザゼルさん、さくちゃんに見つけられてまうよ。見いつけた、ゆってええよ。
 飽きてもうたんかな。そらそやよねえ、むずかしすぎる問題なんて、解けへん思たら、もう一生解かれへんし、解く気ものうなってしまうもんねえ。
 なあさくちゃん、すまんかった、ワシが悪かった、堪忍してえな。このとーり、謝ります。えろうすんまへん。ホンマすんまへん。こんな分かりにくいとこ、隠れたアザゼルさんが、悪いよなあ。ごめん、ごめんなぁ。次からはもーちょい手加減するよって、許してな。な、さくちゃん。



 そやからそんな意地悪せんと、はよう出てきてくれへんやろか。もうええ。ワシの負けでええから。